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グスコーブドリの伝记.pdf

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上传者: 9113159zxd 2011-08-12 评分1 评论0 下载15 收藏0 阅读量349 暂无简介 简介 举报

简介:本文档为《グスコーブドリの伝记pdf》,可适用于外语资料领域,主题内容包含PDD図書館管理番号X新字新かなに変換している【】は傍点付きを示すグスコーブドリの伝記宮沢賢治:作一、森グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森のな符等。

PDD図書館管理番号X新字新かなに変換している【】は傍点付きを示すグスコーブドリの伝記宮沢賢治:作一、森グスコーブドリは、イーハトーヴの大きな森のなかに生れました。お父さんは、グスコーナドリという名高い木樵(キコリ)で、どんな巨(オオ)きな木でも、まるで赤ん坊を寝かしつけるように訳なく伐(キ)ってしまう人でした。ドブリにはネリという妹があって、二人は毎日森で遊びました。ごしっごしっとお父さんの樹(キ)を鋸(ヒ)く音が、やっと聴(キコ)えるくらいな遠くへも行きました。二人はそこで木苺(キイチゴ)をとって湧水(ワキミズ)に漬(ツ)けたり、空を向いてかわるがわる山鳩(ユマバト)の啼(ナ)くまねをしたりしました。するとあちらでもこちらでも、ぽう、ぽう、と鳥が睡(ネム)そうに鳴き出すのでした。お母さんが、家の前の小さな畑に麦を播(マ)いているときは、二人はみちにむしろをしいて座(スワ)って、ブリキ罐(カン)で蘭(ラン)の花を煮(ニ)たりしました。するとこんどは、もういろいろの鳥が、二人のぱさぱさした頭の上を、まるで挨拶(アイサツ)するように啼きながらざあざあざあざあ通りすぎるのでした。ブドリが学校へ行くようになりますと、森はひるの間大へんさびしくなりました。そのかわりひるすぎには、ブドリはネリといっしょに、森じゅうの樹の幹に、赤い粘土(ネンド)や消し炭で、樹の名を書いてあるいたり、高く歌ったりしました。ホップの蔓(ツル)が、両方からのびて、門のようになっている白樺(シラカバ)の樹には、「カッコウドリ、トオルベカラズ」と書いたりもしました。そして、ブドリは十になり、ネリは七つになりました。ところがどういうわけですか、その年は、お日さまが春から変に白くて、いつもなら雪がとけると間もなく、まっしろな花をつけるこぶしの樹もまるで咲かず、五月になってもたびたび霙(ミゾレ)がぐしゃぐしゃ降り、七月の末になっても一向(イッコウ)に暑さが来ないために、去年播(マ)いた麦も粒の入らない白い穂(ホ)しかできず、大抵(タイテイ)の果物も、花が咲いただけで落ちてしまったのでした。そしてとうとう秋になりましたが、やっぱり栗の木は青いからのいがばかりでしたし、みんなでふだんたべるいちばん大切なオリザという穀物も、一つぶもできませんでした。野原ではもうひどいさわぎになってしまいました。ブドリのお父さんもお母さんも、たびたび薪(マキ)を野原の方へ持って行ったり、冬になってからは何べんも巨きな樹を町へそりで運んだりしたのでしたが、いつもがっかりして、わずかの麦の粉などもって帰ってくるのでした。それでもどうにかその冬は過ぎて次の春になり、畑には大切にしまって置いた種子も播かれましたが、その年もまたすっかり前の年の通りでした。そして秋になると、とうとうほんとうの饑饉(キキン)になってしまいました。もうそのころは学校へ来るこどももまるでありませんでした。ブドリのお父さんもお母さんも、すっかり仕事をやめていました。そしてたびたび心配そうに相談しては、かわるがわる町へ出て行って、やっとすこしばかりの黍(キビ)の粒などもって帰ることもあれば、なんにも持たずに、顔いろを悪くして帰ってくることもありました。そしてみんなは、こならの実や、葛(クズ)やわらびの根や、木の柔らかな皮や、いろんなものをたべて、その冬はすごしました。けれども春が来たころは、お父さんもお母さんも、何かひどい病気のようでした。ある日お父さんは、じっと頭をかゝえて、いつまでもいつまでも考えていましたが、俄(ニワ)かに起きあがって、「おれは森へ行って遊んでくるぞ。」と云(イ)いながら、よろよろ家を出て行きましたが、まっくらになっても帰って来ませんでした。二人がお母さんに、お父さんはどうしたろうときいても、お母さんはだまって、二人の顔を見ているばかりでした。次の日の晩方になって、森がもう黒く見えるころ、お母さんは俄(ニワ)かに立って、炉(ロ)に榾(ホダ)をたくさんくべて、家(ウチ)じゅうすっかり明るくしました。それから、わたしはお父さんをさがしに行くから、お前たちはうちに居て、あの戸棚(トダナ)にある粉を二人ですこしづつたべなさいと云って、やっぱりよろよろ家を出て行きました。二人が泣いてあとから追って行きますと、お母さんはふり向いて、「何たらいうことをきかないこどもらだ。」と叱(シカ)るように云いました。そしてまるで足早に、つまずきながら森へ入ってしまいました。二人は何べんも行ったり来たりして、そこらを泣いて廻(マワ)りました。とうとうこらえ切れなくなって、まっくらな森の中へ入って、いつかのホップの門のあたりや、湧水のあるあたりを、あちこちうろうろ歩きながら、お母さんを一晩呼びました。森の樹の間からは、星がちらちら何か云うようにひかり、鳥はたびたびおどろいたように闇(ヤミ)の中を飛びましたけれども、どこからも人の声はしませんでした。とうとう二人はぼんやり家(ウチ)へ帰って中へはいりますと、まるで死んだように睡ってしまいました。ブドリが眼をさましたのは、その日のひるすぎでした。お母さんの云った粉のことを思い出して、戸棚を開けて見ますと、なかには、袋に入れたそば粉やこならの実が、まだたくさん入っていました。ブドリはネリをゆり起して、二人でその粉をなめ、お父さんたちがいたときのように炉に火をたきました。それから、二十日ばかりぼんやり過ぎましたら、ある日戸口で、「今日は。誰か居るかね。」と言うものがありました。お父さんが帰って来たのかと思って、ブドリがはね出して見ますと、それは籠(カゴ)をしょった目の鋭い男でした。その男は籠の中から円(マル)い餅をとり出して、ぽんと投げながら言いました。「私はこの地方の飢饉(キキン)を救(タス)けに来たものだ。さあ何でも喰(タ)べなさい。」二人はしばらく呆(アキ)れていましたら、「さあ喰べるんだ、食べるんだ。」とまた云いました。二人がこわごわたべはじめますと、男はじっと見ていましたが、「お前たちはいゝ子供だ。けれどもいゝ子供だというだけでは何にもならん。わしと一緒(イッショ)についておいで。尤(モット)も男の子は強いし、わしも二人はつれて行けない。おい女の子、おまえはここにいても、もうたべるものがないんだ。おじさんと一緒に町へ行こう。毎日パンを食べさしてやるよ。」そしてぷいっとネリを抱きあげて、せなかの籠へ入れて、そのまゝ、「おゝほいほい。おゝほいほい。」とどなりながら、風のように家(ウチ)を出て行きました。ネリはおもてではじめてわっと泣き出し、ブドリは、「どろぼう、どろぼう。」と泣きながら叫んで追いかけましたが、男はもう森の横を通って、ずうっと向うの草原を走っていて、そこからはネリの泣き声が、かすかにふるえて聞えるだけでした。ブドリは泣いてどなって、森のはずれまで追いかけて行きましたが、とうとう疲れてばったり倒れてしまいました。二、てぐす工場ブドリがふっと眼をひらいたとき、いきなり頭の上で、いやに平べったい声がしました。「やっと眼がさめたな。まだお前は飢饉(キキン)のつもりかい。起きておれに手伝わないか。」見ると、そのは茶いろな【きのこしゃっぽ】をかぶって、外套(ガイトウ)にすぐシャツを着た男で、何か針金でこさえたものを、ぶらぶら持っているのでした。「もう飢饉は過ぎたの?手伝いって何を手伝うの?」ブドリがききました。「網掛けさ。」「ここへ網を掛けるの?」「掛けるのさ。」「網をかけて何にするの?」「【てぐす】を飼うのさ。」見るとすぐブドリの前の栗(クリ)の木に、二人の男がはしごをかけてのぼっていて、一生けん命何か網を投げたり、それを操(タグ)ったりしているようでしたが、網も糸も一向(イッコウ)見えませんでした。「あれでてぐすが飼えるの?」「飼えるさ。うるさいこどもだな。おい、縁起(エンギ)でもないぞ。てぐすも飼えないところに、どうして工場なんか建てるんだ。飼えるともさ。現におれはじめ沢山(タクサン)のものが、それでくらしを立てているんだ。」ブドリはかすれた声で、やっと、「そうですか。」と云いました。「それにこの森は、すっかりおれが買ってあるんだから、こゝで手伝うならいゝが、そうでなければどこかへ行って貰(モラ)いたいな。もっともお前はどこへ行ったって食うものもなかろうぜ。」ブドリは泣き出しそうになりましたが、やっとこらえて云いました。「そんなら手伝うよ。けれどもどうして網をかけるの?」「それは勿論(モチロン)教えてやる。こいつをね。」男は手に持った針金の籠(カゴ)のようなものを、両手で引き伸ばしました。「いゝか。こういう工合(グアイ)にやるとはしごになるんだ。」男は大股(オオマタ)に右手の栗の木に歩いて行って、下の枝に引っ掛けました。「さあ、今度はおまえが、この網をもって上へのぼって行くんだ。さあ、のぼってごらん。」男は変な【まり】のようなものをブドリに渡しました。ブドリは仕方なくそれをもって、【はしご】にとりついて登って行きましたが、【はしご】の段々がまるで細くて、手や足に喰(ク)いこんで、ちぎれてしまいそうでした。「もっと登るんだ。もっと、もっとさ。そしたらさっきの【まり】を投げてごらん。栗の木を越すようにさ。そいつを空に投げるんだよ。何だい、ふるえてるのかい。意気地(イクジ)なしだなあ。投げるんだよ。投げるんだよ。そら、投げるんだよ。」ブドリは仕方なく、力一杯にそれを青空に投げたと思いましたら、俄(ニワ)かにお日さまがまっ黒に見えて、逆(サカ)さまに下へ墜(オ)ちました。そしていつか、その男に受けとめられていたのでした。男はブドリを地面におろしながら、プリプリ憤(オコ)り出しました。「お前もいくじのないやつだ。何というふにゃふにゃだ。俺(オレ)が受け止めてやらなかったら、お前は今ごろ頭がはじけていたろう。おれはお前の命の恩人だぞ。これからは、失礼なことを云ってはならん。ところで、さあ、こんどはあっちの木へ登れ。も少したったら【ごはん】もたべさせてやるよ。」男はまたブドリへ新しい【まり】を渡しました。ブドリは【はしご】をもって、次の樹へ行って【まり】を投げました。「よし、なかなか上手になった。さあ【まり】は沢山あるぞ。なまけるな。樹も栗の木ならどれでもいゝんだ。」男はポケットから、【まり】を十ばかり出してブドリに渡すと、すたすた向うへ行ってしまいました。ブドリはまた三つばかりそれを投げましたが、どうしても息がはあはあして、からだがだるくてたまらなくなりました。もう家(ウチ)へ帰ろうと思って、そっちへ行って見ますと、愕(オドロ)いたことには、家(ウチ)にはいつか赤い土管(ドカン)の煙突がついて、戸口には、「イーハトーヴてぐす工場(コウジョウ)」という看板がかかっているのでした。そして中からたばこをふかしながら、さっきの男が出て来ました。「さあこども、たべものをもってきてやったぞ。これを食べて、暗くならないうちに、もう少し稼(カセ)ぐんだ。」「ぼくはもういやだよ。うちへ帰るよ」「うちっていうのはあすこか、あすこはおまえのうちじゃない。おれのてぐす工場(コウバ)だ。あの家(ウチ)もこの辺の森も、みんなおれが買ってあるんだからな。」ブドリはもうやけになって、だまってその男のよこした蒸しパンをむしゃむしゃたべて、また【まり】を十ばかり投げました。その晩ブドリは、昔じぶんのうち、いまはてぐす工場になっている建物の隅(スミ)に、小さくなって眠りました。さっきの男は、三四人の知らない人たちと、遅くまで炉(ロ)ばたで火をたいて、何か呑(ノ)んだりしゃべったりして居ました。次の朝早くから、ブドリは森に出て、昨日のようにはたらきました。それから一月ばかりたって、森じゅうの栗の木に網がかかってしまいますと、てぐす飼いの男は、こんどは粟(アワ)のようなものがいっぱいついた板きれを、どの木にも五六枚づつ吊(ツル)させました。そのうちに木は芽を出して森はまっ青になりました。すると、樹につるした板きれから、たくさんの小さな青じろい虫が糸をつたわって、列になって枝へ這(ハ)いあがって行きました。ブドリたちはこんどは毎日薪(タキギ)とりをさせられました、その薪が、家(ウチ)のまわりに小山のように積み重なり、栗の木が青じろい紐(ヒモ)のかたちの花を、枝いちめんにつけるころになりますと、あの板から這いあがって行った虫も、ちょうど栗の花のような色とかたちになりました。そして森じゅうの栗の葉は、まるで形もなくその虫に食い荒らされてしまいました。それから間もなく虫は、大きな黄いろな繭(マユ)を、網の目ごとにかけはじめました。すると【てぐす】飼いの男は、狂気のようになって、ブドリたちを叱りとばして、その繭を籠に集めさせました。それをこんどは片っぱしから鍋(ナベ)に入れてぐらぐら煮て、手で車をまわしながら糸をとりました。夜も昼もがらがらがらがら三つの糸車をまわして糸をとりました。こうしてこしらえた黄いろな糸が小屋に半分ばかりたまったころ、外に置いた繭からは、大きな白い蛾(ガ)がぽろぽろぽろぽろ飛びだしはじめました。てぐす飼いの男は、まるで鬼(オニ)みたいな顔つきになって、じぶんも一生けん命糸をとりましたし、野原の方からも四人人(ヒト)を連れてきて働かせました。けれども蛾の方は日ましに多く出るようになって、しまいには森じゅうまるで雪でも飛んでいるようになりました。するとある日、六七台の荷馬車が来て、いままでできた糸をみんなつけて、町の方へ帰りはじめました。みんなも一人づつ荷馬車について行きました。いちばんしまいの荷馬車がたったとき、てぐす飼いの男が、ブドリに、「おい、お前の来春(ライハル)までの食うくらいのものは家(ウチ)の中に置いてやるからな。それまでここで森と工場の番をしているんだぞ。」と云って変ににやにやしながら、荷馬車についてさっさと行ってしまいました。ブドリはぼんやりあとへ残りました。うちの中はまるで汚くて、嵐(アラシ)のようでしたし、森は荒れはてて山家事にでもあったようでした。ブドリが次の日、家(ウチ)のなかやまわりを片附(カタヅ)けはじめましたら、てぐす飼いの男がいつも座(スワ)っていた所から、古いボール紙の函(ハコ)を見附(ミツ)けました。中には十冊ばかりの本がぎっしり入って居(オ)りました。開いて見ると、てぐすの絵や機械の図がたくさんある、まるで読めない本もありましたし、いろいろな樹や草の図と名前の書いてあるものもありました。ブドリは一生めい命、その本のまねをして字を書いたり、図をうつしたりしてその冬を暮らしました。春になりますと、亦(マタ)あの男が六七人のあたらしい手下を連れて、大へん立派ななりをしてやって来ました。そして次の日からすっかり去年のような仕事がはじまりました。そして網はみんなかゝり、黄いろな板もつるされ、虫は枝に這い上り、ブドリたちはまた、薪作りにかゝるころになりました。ある朝ブドリたちが薪をつくっていましたら、俄かにぐらぐらっと地震がはじまりました。それからずうっと遠くでどーんという音がしました。しばらくたつと日が変にくらくなり、こまかな灰がばさばさばさばさ降って来て、森いちめんにまっ白になりました。ブドリたちが呆(アキ)れて樹の下にしゃがんでいましたら、てぐす飼いの男は大へんあわてゝやってきました。「おい、みんな、もうだめだぞ。噴火(フンカ)だ。噴火がはじまったんだ。てぐすはみんな灰をかぶって死んでしまった。みんな早く引き揚げてくれ。おい、ブドリ、お前こゝに居たかったら居てもいゝが、こんどはたべ物は置いてやらないぞ。それにこゝに居ても危ないからな、お前も野原へ出て何か稼ぐ方がいゝぜ。」そう云ったかと思うと、もうどんどん走って行ってしまいました。ブドリが工場へ行って見たときは、もう誰も居(オ)りませんでした。そこでブドリはしょんぼりと、みんなの足痕(アシアト)のついた白い灰をふんで、野原の方へ出て行きました。3、沼ばたけブドリは、いっぱい灰をかぶった森の間を、町の方へ半日歩きつゞけました。灰は風の吹くたびに樹(キ)からばさばさ落ちて、まるでけむりか吹雪のようでした。けれどもそれは野原へ近づくほど、だんだん浅く少なくなって、ついには樹も緑に見え、みちの足痕(アシアト)も見えないくらいになりました。とうとう森を出切ったとき、ブドリは思わず眼(メ)をみはりました。野原は眼の前から、遠くのまっしろな雲まで、美しい桃いろと緑と灰いろのカードでてきているようでした。そばへ寄って見ると、その桃いろなのには、いちめんせいの低い花が咲いていて、蜜蜂(ミツバチ)がいそがしく花から花をわたってあるいていましたし、緑いろなのには、小さな穂(ホ)を出して草がぎっしり生(ハ)え、灰いろなのは浅い泤の沼でした。そしてどれも、幅のせまい土手でくぎられ、人は馬を使ってそれを堀(ホ)り起したり掻(カ)き廻(マワ)したりしてはたらいていました。ブドリがその間を、しばらく歩いて行きますと、道のまん中に、二人の人が、大声で何か喧嘩(ケンカ)でもするように云い合っていました。右側の方の鬚(ヒゲ)の赭(アカ)い人が云いました。「何でもかんでも、おれは山師張(ヤマシバ)るときめた。」するとも一人の白い笠(カサ)をかぶった、せいの高いおじいさんがいいました。「やめろって云ったらやめるもんだ。そんなに肥料(コヤシ)うんと入れて、藁(ワラ)はとれるたって、実(ミ)は一粒もとれるもんでない。」「うんにゃ、おれの見込みでは、今年は今までの三年分暑いに相違ない。一年で三年分とって見せる。」「やめろ。やめろ。やめろったら。」「うんにゃ、やめない。花はみんな埋めてしまったから、こんどは豆玉(マメタマ)を六十枚入れてそれから鶏(トリ)の糞(カエシ)、百駄(ダン)入れるんだ。急がしったら、何のこう忙しくなれば、さゝげの蔓(ツル)でもいゝから手伝いに頼みたいもんだ。」ブドリは思わず近寄っておじぎをしました。「そんならぼくを使ってくれませんか。」すると二人は、ぎょっとしたように顔をあげて、あごに手をあてゝしばらくブドリを見ていましたが、赤鬚が俄(ニワ)かに笑い出しました。「よしよし、お前に馬の指竿(サセ)とりを頼むからな。すぐおれについて行くんだ。それではまず、のるかそるか、秋まで見てゝくれ。さあ行こう。ほんとに、【さゝげ】の蔓にでもいゝから頼みたい時でな。」赤鬚は、ブドリとおじいさんに交(カワ)る交る云いながら、さっさと先に立って歩きました。あとではおじいさんが、「年寄りの云うこと聞かないで、いまに泣くんだな。」とつぶやきながら、しばらくこっちを見送っているようすでした。それからブドリは、毎日毎日沼ばたけへ入って、馬を使って泤を掻き廻しました。一日ごとに桃いろのカードも緑のカードもだんだん潰されて、泤沼に変るのでした。馬はたびたびぴしゃっと泤水をはねあげて、みんなの顔へ打ちつけました。一つの沼ばたけがすめば、すぐに次の沼ばたけへ入るのでした。一日がとても永くて、しまいには歩いているのかどうかもわからなくなったり、泤が飴(アメ)のような、水がスープのような気がしたりするのでした。風が何べんも吹いて来て、近くの泤水に魚の鱗(ウロコ)のような波をたて、遠くの水をブリキいろにして行きました。そらでは、毎日甘くすっぱいような雲が、ゆっくりゆっくりながれていて、それがじつにうらやましそうに見えました。こうして二十日ばかりたちますと、やっと沼ばたけはすっかりどろどろになりました。次の朝から主人はまるで気が立って、あちこちから集まって来た人たちといっしょに、その沼ばたけに緑いろの槍(ヤリ)のようなオリザの苗をいちめん植えました。それが十日ばかりで済むと、今度はブドリたちを連れて、今まで手伝って貰(モラ)った人たちの家へ毎日働きにでかけました。それもやっと一まわり済むと、こんどはまたじぶんの沼ばたけへ戻って来て、毎日毎日草取りをはじめました。ブドリの主人の苗は大きくなってまるで黒いくらいなのに、となりの沼ばたけはぼんやりしたうすい緑いろでしたから、遠くから見ても、二人の沼ばたけははっきり堺(サカイ)まで見わかりました。七日ばかりで草取りが済むとまたほかへ手伝いに行きました。ところがある朝、主人はブドリを連れて、じぶんの沼ばたけを通りながら、俄かに「あっ」と叫んで棒立ちになってしまいました。見ると唇(クチビル)のいろまで水いろになって、ぼんやりまっすぐを見つめているのです。「病気が出たんだ。」主人がやっと云いました。「頭でも痛いんですか。」ブドリはききました。「おれでないよ。オリザよ。それ。」主人は前のオリザの株を指さしました。ブドリはしゃがんでしらべて見ますと、なるほどどの葉にも、いままで見たことのない赤い点々がついていました。主人はだまってしおしおと沼ばたけを一まわりしましたが、家へ帰りはじめました。ブドリも心配してついて行きますと、主人はだまって巾(キレ)を水でしぼって、頭にのせると、そのまゝ板の間に寝てしまいました。すると間もなく、主人のおかみさんが表からかけ込んで来ました。「オリザへ病気が出たというのはほんとうかい。」「あゝ、もうだめだよ。」「どうにかならないのかい。」「だめだろう。すっかり五年前の通りだ。」「だから、あたしはあんたに山師はやめろといったんじゃないか。おじいさんもあんなにとめたんじゃないか。」おかみさんはおろおろ泣きはじめました。すると主人が俄かに元気になって、むっくり起きあがりました。「よし。イーハトーヴの野原で、指折り数えられる大百姓のおれが、こんなことで参るか。よし、来年こそやるぞ。ブドリ。おまえおれのうちへ来てから、まだ一晩も寝たいくらい寝たことがないな。さあ、五日でも十日でもいゝから、ぐうというくらい寝てしまえ。おれはそのあとで、あすこの沼ばたけでおもしろい手品をやって見せるからな。その代り今年の冬は、家じゅうそばばかり食うんだぞ。おまえそばはすきだろうが。」それから主人はさっさと帽子をかぶって外へ出て行ってしまいました。ブドリは主人に云われた通り納屋(ナヤ)へ入って睡(ネム)ろうと思いましたが、何だかやっぱり沼ばたけが苦になって仕方ないので、またのろのろそっちへ行って見ました。するといつ来ていたのか、主人がたった一人、腕組みをして土手に立って居(オ)りました。見ると沼ばたけには水がいっぱいで、オリザの株は葉をやっと出しているだけ、上にはぎらぎら石油が浮かんでいるのでした。主人が云いました。「いまおれ、この病気を蒸し殺してみるところだ。」「石油で病気の種が死ぬんですか。」とブドリがきゝますと、主人は、「頭から石油に漬(ツ)けられたら人だって死ぬだ。」と云いながら、ほうと息を吸って首をちゞめました。その時、水下(ミズシモ)の沼ばたけの持主が、肩をいからして、息を切ってかけて来て、大きな声でどなりました。「何だって油など水へ入れるんだ。みんな流れて来て、おれの方へはいってるぞ。」主人は、やけくそに落ちついて答えました。「何だって油など水へ入れるったって、オリザへ病気がついたから、油など水へ入れるのだ。」「何だってそんならおれの方へ流すんだ。」「何だってそんならおまえの方へ流すったって、水は流れるから油もついて流れるのだ。」「そんなら何だっておれの方へ水来ないように水口(ミナグチ)とめないんだ。」「何だっておまえの方へ水行かないように水口とめないかったって、あすこはおれのみな口でないから水とめないのだ。」となりの男は、かんかん怒ってしまってもう物も云えず、いきなりがぶがぶ水へはいって、自分の水口に泤を積みあげはじめました。主人はにやりと笑いました。「あの男むずかしい男でな。こっちで水をとめると、とめたといって怒るから、わざと向うにとめさせたのだ。あすこさえとめれば、今夜中に水はすっかり草の頭までかかるからな、さあ帰ろう。」主人はさきに立って、すたすた家(ウチ)へあるきはじめました。次の朝ブドリはまた主人と沼ばたけへ行ってみました。主人は水の中から葉を一枚とって、しきりにしらべていましたが、やっぱり浮かない顔でした。その次の日もそうでした。その次の日もそうでした。その次の日もそうでした。その次の朝、とうとう主人は決心したように云いました。「さあブドリ、いよいよこゝへ蕎麦(ソバ)播(マ)きだぞ。おまえあすこへ行って、となりの水口こわして来い。」ブドリは、云われた通りこわして来ました。石油のはいった水は、恐ろしい勢(イキオイ)でとなりの田へ流れて行きます。きっとまた怒ってくるなと思っていますと、ひるごろ例のとなりの持主が、大きな鎌(カマ)をもってやってきました。「やあ、何だってひとの田へ石油を流すんだ。」主人がまた、腹の底から声を出して答えました。「石油ながれれば何だって悪いんだ。」「オリザみんな死ぬではないか。」「オリザみんな死ぬか、オリザみんな死なないか、まずおれの沼ばたけのオリザ見なよ。今日で四日頭から石油かぶせたんだ。それでちゃんとこの通りでないか。赤くなったのは病気のためで、勢のいゝのは石油のためなんだ。おまえの所など、石油がたゞオリザの足を通るだけでないか。却(カエ)っていゝかもしれないんだ。」「石油こやしになるか。」向うの男は少し顔いろをやわらげました。「石油こやしになるか、石油こやしにならないか知らないが、とにかく石油は油でないか。」「それは石油は油だな。」男はすっかり機嫌(キゲン)を直してわらいました。水はどんどん退(ヒ)き、オリザの株は、見る見る根もとまで出て来ました。すっかり赤い斑(マダラ)ができて、焼けたようになっています。「さあおれの所ではもうオリザ刈(カ)りをやるぞ。」主人は笑いながら云って、それからブドリといっしょに、片っぱしからオリザの株を刈り、跡へすぐ蕎麦を播いて、土をかけて歩きました。そしてその年はほんとうに主人の云ったとおり、ブドリの家では蕎麦ばかり食べました。次の春になりますと主人が云いました。「ブドリ、今年は沼ばたけは去年よりは三分の一減ったからな、仕事はよほど楽だ。その代わりおまえは、おれの死んだ息子の読んだ本を、これから一生けん命勉強して、いままでおれを山師だといってわらったやつらを、あっと云わせるような立派なオリザを作る工夫(クフウ)をして呉(ク)れ。」そして、いろいろな本を一山ブドリに渡しました、ブドリは仕事のひまに、片っぱしからそれを読みました。殊(コト)にその中の、クーボーという人の物の考え方を教えた本は面白かったので、何べんも読みました。またその人が、イーハトーヴの市で一ヶ月の学校をやっているのを知って、大へん行って習いたいと思ったりしました。そして早くもその夏、ブドリは大きな手柄をたてました。それは去年と同じ頃(コロ)、またオリザに病気ができかかったのを、ブドリが木の灰と食塩(シオ)を使って食いとめたのでした。そして八月のなかばになると、オリザの株はみんなそろって穂を出し、その穂の一枝ごとに小さな白い花が咲き、花はだんだん水いろの籾(モミ)にかわって、風にゆらゆら波をたてるようになりました。主人はもう得意の絶頂でした。来る人ごとに、「何のおれも、オリザの山師で四年しくじったけれども、今年は一度に四年前とれる。これもまたなかなかいゝもんだな。」などと云って自慢するのでした。ところがその次の年はそうは行きませんでした。植え付けの頃からさっぱり雨が降らなかったために、水路は乾いてしまい、沼にはひびが入って、秋のとりいれは、やっと冬じゅう食べるくらいでした。来年こそと思っていましたが、次の年もまた同じようにひでりでした。それからも来年こそ来年こそと思いながら、ブドリの主人は、だんだんこやしを入れることができなくなり、馬も売り、沼ばたけもだんだん売ってしまったのでした。ある秋の日、主人はブドリにつらそうに云いました。「ブドリ、おれももとはイーハトーヴの大百姓だったし、ずいぶん稼(カセ)いでも来たのだが、たびたびの寒さと旱魃(カンバツ)のために、いまでは沼ばたけも昔の三分の一になってしまったし、来年は、もう入れるこやしもないのだ。おれだけでない。来年こやしを買って入(イ)れれる人ったら、もうイーハトーヴにも何人もないだろう。こういうあんばいでは、いつになっておまえにはたらいて貰った礼をするというあてもない。おまえも若いはたらき盛りを、おれのとこで暮してしまってはあんまり気の毒だから、済まないがどうかこれを持って、どこへでも行っていい運を見つけてくれ。」そして主人は一ふくろのお金と、新しい紺で染めた麻の服と赤革の靴とをブドリにくれました。ドリはいままでの仕事のひどかったことも忘れてしまって、もう何(ナ)にもいらないから、こで働いていたいと思いましたが、考えてみると、居てもやっぱり仕事もそんなにないので、主人に何べんも何べんも礼を云って、六年の間はたらいた沼ばたけと主人に別れて、停車場をさして歩きだしました。4、クーボー大博士ブドリは二時間ばかり歩いて、停車場へ来ました。それから切符を買って、イーハトーヴ行きの汽車に乗りました。汽車はいくつもの沼ばたけをどんどんどんどんうしろへ送りながら、もう一散に走りました。その向うには、たくさんの黒い森が、次から次と形を変えて、やっばりうしろの方へ残されて行くのでした。ブドリはいろいろな思いで胸がいっぱいでした。早くイーハトーヴの市に着いて、あの親切な本を書いたクーボーという人に会い、できるなら、働きながら勉強して、みんながあんなにつらい思いをしないで沼ばたけを作れるよう、また火山の灰だのひでりだの寒さだのを除く工夫をしたいと思うと、汽車さえまどろこくってたまらないくらいでした。汽車はその日のひるすぎ、イーハトーヴの市に着きました。停車場を一足出ますと、地面の底から何かのんのん湧(ワ)くようなひゞきや、どんよりしたくらい空気、行ったり来たりする沢山(タクサン)の自働車のあいだに、ブドリはしばらくぼうとしてつっ立ってしまいました。やっと気をとりなおして、そこらの人に、クーボー博士の学校へ行くみちをたずねました。すると、誰(タレ)に訊(キ)いても、みんなブドリのあまりまじめな顔を見て、吹き出しそうにしながら、「そんな学校は知らんね。」とか、「もう五六丁行って訊いて見な。」とかいうのでした。そして、ブドリがやっと学校をさがしあてたのはもう夕方近くでした。その大きなこわれかかった白い建物の二階で、誰か大きな声でしゃべっていました。「今日は。」ブドリは高く叫びました。誰も出てきませんでした。「今日はあ。」ブドリはあらん限り高く叫びました。するとすぐ頭の上の二階の窓から、大きな灰いろの顔が出て、めがねが二つ、ぎらりと光りました。それから、「今授業中だよ、やかましいやつだ。用があるならはいって来い。」とどなりつけて、すぐ顔を引っこめますと、中では大勢(オオゼイ)でどっと笑い、その人は構(カマ)わず、また何か大声でしゃべっています。ブドリはそこで思い切って、なるべく足音をたてないように、二階にあがって行きますと、階段のつき当りの扉(ト)があいていて、じつに大きな教室が、ブドリのまっ正面にあらわれました。中にはさまざまの服装をした学生がぎっしりです。向うは大きな黒い壁になっていて、そこにたくさんの白い線が引いてあり、さっきのせいの高い眼(メ)がねをかけた人が、大きな艪(ヤグラ)の形の模型を、ふちこち指(ユビサ)しながら、さっきのまゝの高い声で、みんなに説明して居(オ)りました。ブドリはそれを一目見ると、あゝこれは先生の本に書いてあった歴史の歴史ということの模型だなと思いました。先生は笑いながら、一つの【とって】を廻(マワ)しました。模型はがちっと鳴って奇体な船のような形になりました。またがちっと【とって】を廻すと、模型はこんどは大きなむかでのような形に変りました。みんなはしきりに首をかたむけて、どうにもわからんという風にしていましたが、ブドリにはたゞ面白かったりです。「そこでこういう図ができる。」先生は黒い壁へ別の込み入った図をどんどん書きました。左手にもチョークをもって、さっさっと書きました。学生たちもみんな一生けん命そのまねをしました。ブドリもふところから、いままで沼ばたけで持っていた汚い手帳を出して、図を書きとりました。先生はもう書いてしまって、壇の上にまっすぐに立って、じろじろ学生たちの席を見まわしています。ブドリも書いてしまって、その図を縦横(タテヨツ)から見ていますと、ブドリのとなりで一人の学生が、「あゝあ。」とあくびをしました。ブドリはそっとききました。「ね、この先生は何(ナン)て云うんですか。」すると学生はばかにしたように鼻でわらいながら答えました。「クーボー大博士さ、お前知らなかったのかい。」それからじろじろブドリのようすを見ながら、「はじめから、この図なんか書けるもんか。ぼくでさえ同じ講義をもう六年もきいているんだ。」と云ってじぶんのノートをふところへしまってしまいました。その時教室に、ぱっと電燈がつきました。もう夕方だったのです。大博士が向うで言いました。「いまは夕(ユウベ)ははるかに来たり、拙講(セッコウ)もまた全課を了(オ)えた。諸君のうちの希望者は、けだしいつもの例により、そのノートをば拙者(セッシャ)に示し、更に数箇の試問を受けて、所属を決すべきである。」学生たちはわあっと叫んで、みんなばたばたノートをとじました。それからそのまゝ帰ってしまうのが大部分でしたが、五六十人は、一列になって、大博士の前をとおりながら、ノートを開いて見せるのでした。すると大博士はそれを一寸(チョット)見て、一言か二言質問して、それから白墨<チョーク>でえりへ、「合」とか、「再来」とか、「奮励(フンレイ)」とか書くのでした。学生はその間、いかにも心配そうに首をちぢめているのでしたが、それからそっと肩をすぼめて廊下まで出て、友達にそのしるしを読んで貰って、よろこんだりしょげたりするのでした。ぐんぐん試験が済んで、いよいよブドリ一人になりました。ブドリがその小さな汚い手帳を出したとき、クーボー大博士は大きなあくびをやりながら、屈(カガ)んで眼をぐっと手帳につけるようにしましたので、手帳はあぶなく大博士に吸い込まれそうになりました。ところが大博士は、うまそうにこくっと一つ息をして、「よろしい。この図は非常に正しくできている。そのほかのところは、何だ、ははあ、沼ばたけのこやしのことに、馬のたべ物のことかね。では問題を答えなさい。工場(コウバ)の煙突から出るけむりには、どういう色の種類があるか。」ブドリは思わず大声に答えました。「黒、褐(カツ)、黄、灰、白、無色。それからこれらの混合です。」大博士はわらいました。「無色のけむりは大へんいゝ。形について云いたまえ。」「無風で煙が相当あれば、たての棒になりますが、さきはだんだんひろがります。雲の非常に低い日は、棒は雲まで昇って行って、そこから横にひろがります。風のある日は、棒は斜めになりますが、その傾きは風の程度に従います。波や幾つもきれになるのは、風のためにもよりますが、一つはけむりや煙突のもつ癖のためです。あまり煙の少ないときは、コルク抜きの形にもなり、煙も重い瓦斯(ガス)がまじれば、煙突の口から房(フサ)になって、一方乃至(ナイシ)四方に落ちることもあります。」大博士はまたわらいました。「よろしい。きみはどういう仕事をしているのか。」「仕事をみつけに来たんです。」「面白い仕事がある。名刺(メイシ)をあげるから、そこへすぐ行きなさい。」博士は名刺をとり出して、何かするする書き込んでブドリに呉(ク)れました。ブドリはおじぎをして、戸口を出て行こうとしますと、大博士はちょっと眼で答えて、「何だ、ごみを焼いているのかな。」と低くつぶやきながら、テーブルの上にあった鞄(カバン)に、白墨<チョーク>のかけらや、はんけちや本や、みんな一緒に投げ込んで小脇(コワキ)にかかえ、さっき顔を出した窓から、プイッと外へ飛び出しました。びっくりしてブドリが窓へかけよって見ますといつか大博士は玩具(オモチャ)のような小さな飛行船に乗って、じぶんでハンドルをとりながら、もううす青いもやのこめた町の上を、まっすぐに向うへ飛んでいるのでした。ブドリがいよいよ呆(アキ)れて見ていますと、間もなく大博士は、向うの大きな灰いろの建物の平屋根に着いて、船を何かかぎのようなものにつなぐと、そのままぽろっと建物の中へ入って見えなくなってしまいました。5、イーハトーヴ火山局ブドリが、クーボー大博士から貰った名刺の宛名(アテナ)をたずねて、やっと着いたところは大きな茶いろの建物で、うしろには房(フサ)のような形をした高い柱が夜のそらにくっきり白く立って居(オ)りました。ブドリは玄関に上(アガ)って呼鈴(ヨビリン)を押しますと、すぐ人が出て来て、ブドリの出した名刺を受け取り、一目見ると、すぐブドリを突き当りの大きな室(ヘヤ)へ案内しました。そこにはいままでに見たこともないような大きなテーブルがあって、そのまん中に、一人の少し髪の白くなった、人のよさそうな立派の人が、きちんと座(スワ)って耳に受話器をあてながら、何か書いていました。そしてブドリの入って来たのを見ると、すぐ横の椅子を指(ユビサ)しながら、また続けて何か書きつけています。その室の右手の壁いっぱいに、イーハトーヴ全体の地図が、美しく色どった巨(オオ)きな模型に作ってあって、鉄道も町も川も野原も、みんな一目でわかるようになって居り、そのまん中を走るせぼねのような山脈と、海岸に沿って縁(ヘリ)をとったようになっている山脈、またそれから枝を出して海の中に点々の島をつくっている一列の山山には、みんな赤や橙や黄のあかりがついていて、それが代る代る色が変ったり、ジーと蝉(セミ)のように鳴ったり、数字が現れたり消えたりしているのです。下の壁に添った棚(タナ)には、黒いタイプライターのようなものが、三列に百でもきかないくらい並んで、みんなしずかに動いたり、鳴ったりしているのでした。ブドリがわれを忘れて見とれて居りますと、その人が受話器をことっと置いて、ふところから名刺入れを出して、一枚の名刺をブドリに出しながら、「あなたが、グスコーブドリ君ですか。私はこう云うものです。」と云いました。見ると、イーハトーヴ火山局技師ペンネンナームと書いてありました。その人はブドリの挨拶(アイサツ)になれないで、もじもじしているのを見ると、重ねて親切に云いました。「さっきクーボー博士から電話があったのでお待ちしていました。まあこれから、ここで仕事をしながら、しっかり勉強してごらんなさい。ここの仕事は、去年はじまったばかりですが、じつに責任のあるもので、それに半分は、いつ噴火するかわからない火山の上で、仕事するものなのです。それに火山の癖というものは、なかなか学問でわかることではないのです。われわれはこれからよほどしっかりやらなければならんのです。では今晩はあっちにあなたの泊るところがありますから、そこでゆっくりお休みなさい。あしたこの建物中をすっかり案内しますから。」次の朝、ブドリはペンネン老技師に連れられて、建物のなかを一一つれて歩いて貰(モラ)い、さまざまの器械やしかけを詳(クワ)しく教わりました。その建物のなかのすべての器械は、みんなイーハトーヴ中の三百幾つかの活火山や休火山に続いていて、それらの火山の、煙や灰を噴(フ)いたり、鎔岩(ヨウガン)を流したりしているようすは勿論(モチロン)、みかけはじっとしている古い火山でも、その中の鎔岩や瓦斯(ガス)のもようから、山の形の変りようまで、みんな数字になったり図になったりして、あらわれて来るのでした。そして烈しい変化のある度(タビ)に、模型はみんな別々の音が鳴るのでした。ブドリはその日からぺンネン老技師について、すべての器械の扱い方や観測のしかたを習い、夜も昼も一心に働いたり勉強したりしました。そして二年ばかりたちますと、ブドリはほかの人たちと一緒(イッショ)に、あちこちの火山へ器械を据(ス)え付けに出されたり、据え付けてある器械の悪くなったのを、修繕にやられたりもするようになりましたので、もうブドリにはイーハトーヴの三百幾つの火山と、その働き工合(グアイ)は掌(テノヒラ)の中にあるようにわかって来ました。じつにイーハトーヴには七十幾つかの火山が、毎日煙をあげたり、鎔岩を流したりしているのでした。五十幾つかの休火山は、いろいろな瓦斯を噴いたり、熱い湯を出したりしていました。そして残りの百六七十の死火山のうちにも、いつまた何をはじめるかわからないものもあるのでした。ある日ブドリが老技師とならんで仕事をして居りますと、俄(ニワ)かにサンムトリという南の方の海岸にある火山が、むくむく器械に感じ出して来ました。老技師が叫びました。「ブドリ君。サンムトリは、今朝(ケサ)まで何もなかったね。」「はい、いままでサンムトリのはたらいたのを見たことがありません。」「あゝ、これはもう噴火が近い。今朝の地震が刺戟(シゲキ)したのだ。この山の北十キロのところにはサンムトリの市がある。今度爆発すれば、多分山は三分の一、北側をはねとばして、牛や卓子<テーブル>ぐらいの岩は、熱い灰や瓦斯といっしょに、どしどしサンムトリ市に落ちてくる。どうでも今のうちに、この海に向いた方へ、ボーリングを入れて傷口をこさえて、瓦斯を抜くか、鎔岩を出させるかしなければならない。今すぐ二人で見に行こう。」二人はすぐに支度(シタク)をして、サンムトリ行きの汽車に乗りました。六、サンムトリ火山二人は次の朝、サンムトリの市に着き、ひるころサンムトリ火山の頂(イタダキ)近く、観測器械を置いてある小屋に登りました。そこは、サンムトリ山の古い噴火口の外輪山が、海の方へ向いて欠けた所で、その小屋の窓からながめますと、海は青や灰いろの幾つもの縞(シマ)になって見え、その中を汽船は黒いけむりを吐き、銀いろの水脈(ミオ)を引いていくつも滑って居(イ)るのでした。老技師はしずかにすべての観測機を調べ、それからブドリに云(イ)いました。「きみはこの山は、あと何日ぐらいで噴火すると思うか。」「一月(ヒトツキ)はもたないと思います。」「一月はもたない。もう十日ももたない。早く工作をしてしまわないと、取り返しのつかないことになる。私(ワタシ)はこの山の海に向いた方では、あすこが一番弱いと思う。」老技師は山腹の谷の上の、うす緑の草地を指さしました。そこの雲の影がしずかに青く滑っているのでした。「あすこには鎔岩(ヨウガン)の層が二つしかない。あとは柔らかな火山灰と火山礫(カザンレキ)の層だ。それにあすこまでは牧場の道も立派にあるから、材料を運ぶことも造作(ゾウサ)ない。ぼくは工作隊を申請しよう。」老技師は忙(セワ)しく局へ発信をはじめました。その時脚(アシ)の下では、つぶやくような微(カス)かな音がして、観測小屋はしばらくぎしぎし軋(キシ)みました。老技師は機械をはなれました。「局からすぐ工作隊を出すそうだ。工作隊といっても半分決死隊だ。私はいままでに、こんな危険に迫った仕事をしたことがない。」「十日のう

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