首页 夏藏対音資料西夏語声調

夏藏対音資料西夏語声調

举报
开通vip

夏藏対音資料西夏語声調 Title夏藏対音資料からみた西夏語の声調 Author(s)荒川, 慎太郎 Citation言語学研究 (1999), 17-18: 27-44 Issue Date1999-12-24 URL http://hdl.handle.net/2433/88013 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversionpublisher KURENAI : Kyoto University Research Information Repository ...

夏藏対音資料西夏語声調
Title夏藏対音資料からみた西夏語の声調 Author(s)荒川, 慎太郎 Citation言語学研究 (1999), 17-18: 27-44 Issue Date1999-12-24 URL http://hdl.handle.net/2433/88013 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversionpublisher KURENAI : Kyoto University Research Information Repository Kyoto University 夏藏対音資料からみた西夏語の声調 荒川 慎太郎 0.は じめ に 西夏語 とは、11世 紀か ら13世 紀 にかけて中国西北部で栄 えた西夏 の言語である。 現在では死語 と化 したが、仏典 を始め豊富な言語資料 を残 している。なかで も西夏 語仏教 文献 には、夏藏対音資料 とで もい うべ き、チベ ッ ト文字 によって西夏語音 を 転写 した興味深 い資料が少 なか らず存在する。本稿 では資料 と して、ロシア科学 ア カデ ミー東方学研究所サ ンク トペテルブルグ支部(以 下、東方学研 究所)所 蔵 の夏 藏対音資料注1を主 に用いて、 これ まで体系的な研究が なされていなかった西夏語 の 声調 について、チベ ッ ト文字 による転写表記か ら検討す ることを目的 とす る。結論 として、西夏語 の平声 には高声調のまま平板な高平調 を、上声 には低声調 か ら上昇 する低昇調 を推定 する。 第一節では、本考察で扱 った資料 についての概要 を説明す る。第二節では、西夏 語韻書 にお ける声調 の記述 と、西夏語の声調 に関す る先行研究 に言及す る。また他 言語対音資料 による考察 を略述する。第三節では、チベ ッ ト語 の声調 とそれを表記 するチベ ッ ト文字 について、本考察 に関係する事項 を述べ る。第 四節では、本論 と して、夏藏対音資料 に見 られるチベ ッ ト文字転写か ら西夏語の声調 について検討す る。第五節では、結論 をまとめる。 0.1本 稿 で の表 記 西夏語の例 は、西夏文字、荒川による推定音の表記(参 考資料 参照)、 韻書 によ る声調 と所属韻類 、字義 を記 し、チベ ット語の例 はローマ字転写 を記 した注2。 ()内 の数字 は断片番号、行数、何文字 目か を示 す。 0.2本 稿 での略号 本稿 での 略号 は以 下 の もの を使 用 す る。 注1本稿で扱った文献の調査は、1997年12月 、および1998年7月 に、科学研究費補助金(国 際学術研究 「北 ・中央ユーラシアのチュルク系極小言語の調査研究」課題番号08041022、 研究代表者庄垣内正弘 教授)に もとついて行なった。庄垣内正弘教授をはじめ、現地では東方学研究所所長E.1.ク チャー ノブ博士、同研究所所員K.B.ケ ピン博士 ら、多 くの研究者の指導と協力を得た。感謝の意を表する とともにここに記 しておきたい。 注2夏藏対音資料におけるチベ ット文字の例 と転写法については、3.0参照。チベ ット文字の転写にっい ては、本稿の内容上、CIC2の 表記について、添前字+基 字の場合はci-caの ようにハイフンを入 れ、添頭字+基 字(ま たは基字+添 足字)の 場合はCIC2の ように表記 して区別 した。たとえばgと yの 子音連続は添前字g+基 字y、 あるいは基字g+添 足字yで 表される。前者はg―y、後者はgyの ように表記する。 一27一 Tan.― 西 夏 語 、 Tib.― チ ベ ッ ト語 、 Fr.―fragment(断 片 者 号)、S.―Stein(大英 博 物 館 所 蔵 断 片)。 1.夏 藏対音資料 について 1.1夏 藏対音資料 と西夏語音韻論への役割 仏教 隆盛 に より西夏 は大量の仏教文献 を残 したが、その中 には西夏語音韻論の研 究 に重要 な情報 をもた らす資料 も少な くない。例 えば、西夏語 一サ ンス クリッ ト対 音資料 となる仏典中の陀羅尼や、一連の仏教語の音訳語 などである。そればか りで はな く、西夏語仏典 には、西夏文字の隣にチベ ッ ト文字 による音転写が付 された、 いわば振 り仮名 をふ られた、夏藏対音資料 とい うべ きものが存在する。 夏藏対 音資料 は、西夏語音韻論の研 究に有用 な他言語対音資料 である と認め られ ていたか ら、西夏語研 究初期の段階か ら注 目され ていた。Nevsky(1926)の 『西藏 文字対照西夏文字抄覧』 は、西夏文字334字 種 について、ネ フスキーの推定音、字 義、夏藏対音例 、夏漢対音例が記 された、現在で もなおその価値 を失わない字典 と して知 られる。 また、以来、西夏語音 を再構成す る際の手がか りとして も利用 され て きた注3。本考察 に関係す る夏藏対音例 については2.3で 再述す る。 1.2 東方学研究所所蔵夏藏対音資料 Driem and Kepping(1991:119―122)に は、本稿 で も利用 した東 方 学研究 所 所蔵 の 夏藏対 音 資 料(Texts l・20注4)、 お よび大英 博物館 所 蔵 ス タイ ン収 集 品(Texts 21- 24)に つ い て 、各 断片 の体 裁(書 体 、行 数、字 数 な ど)と 旧整 理者 号 との対 比 が記 され て い る。 今 回調 査 、 分析 した資料 はいずれ 別稿 に て、 その 内容 も含 め て よ り詳 細 な記述 を試 み たい が、 こ こで は現在 東方 学研 究所 で付 され た最 新 の整理 番号 と、 仏 典 の分 類 、体 裁 につ い て簡単 に述べ て お く。 東方学研究所所蔵 の夏藏対音資料は、内容か ら、以下の三種 に分類 される。以下 に各種 の仏典 の断片数、整理番号 を示す。Fr.で 示 したの はケ ピン博士 らに よって再 整理 された断片番号 であ る。 濁Wolfenden(1931)は、西夏語初頭子音 に子音結合が存在 する こと、 そ してそれが四川省 ジ ャロン 語の初頭子音 に対応す ることを根拠 に、西夏人の末裔がジャロン人であ るとい うことを述べ た。西夏 語-ジ ヤロン語直系説 はもち ろん、チベ ッ ト語の複合子音表記(添 前字、 また は添頭字+基 字)が 音 価 そのままに西夏語 の初頭子音 に対応す るとい う説 は、現在 の研究者 間で はほぼ否定 されてい る。 こ の仮説 と王静如 に よる反論 については西田(1964:8-10)に 詳 しい。 注4Driem and Kepping(1991)のText番 号。 これはフォ トコピーを整理 した ものであ るため、同一断片 も含 まれ、断片枚数が対応 しないが、Texts 1-19が 今回整理 した1)、2)に 、 Text 20が3)に 相 当す る。 一28― 1) 名 称 不 明 七 言 偈 文(6断 片) No.8362, Fr.1,2,3,4,5A,5B 2) 名 称 不 明 仏 典(11断 片) No.8362, Fr.1(6),2(7),3(8),4(9),5(10),6(11)注5,7(12),8(13), 9(14),10(15),11(16) 3) 『金剛般若波羅密経』 (1断 片)注6No.8299 1)は 、大小6断 片(縦24cm× 横12~38 cm)か らなる七言偈文 で、 もともとは 巻子本 とお もわれる写本である。七言偈文 は一行上下二段 に記 され(1行14字)、 西夏文字の右側 にチベ ッ ト文字の振 り仮名 を持つ。 これ まで一断片 も公 開 され てお らず、今後調査 ・分析 を要す る資料 である。 今 回 の調 査 で 、 これ らの 断片 の うち四 点 は、Fr.5A→5B→4→1の 順 に一 続 きであ った が、 断片 化 した もの で あ る こ とが判 明 した。 2)は 、それぞれ縦27cln× 横15~31 cmの 断片(1行22字 ~25字)で 、本来 は巻 子本写本であった と考 えられる。ll断 片 に分かれているが、おそ ら く一続 きの仏典 であろ う。西夏文字の右側 にチベ ット文字の転写を持 つ。途中でチベ ッ ト文字 の書 き手が交代 したためか、二断片のチベ ット文字の線は極端 に細 く、筆跡が変わ って いることが確認 で きる。 今 回の調 査 に よ り、諸 断 片 は実 際 には、 そ れぞれ 、Fr.3(8)→9(14)→1(6)と4(g)→ 7(12)とli(16)→10(15)と が 、順 に一続 きで あ った ものが 、 断片化 した もの で あ る と 判 明 した。 3)は 、縦20cm× 横9cmの 比較的小 さな一断片で、1行12文 字、6行 が現存す る。3)は 他の資料 と異 な り、チベ ット文字が西夏文字の左側 に、朱字 で記 されてい るとい う特徴 的な外見 を持つ。そ して 「須菩提」の ような音訳語 には、略 されたた めかチベ ッ ト文字が付 されていない。 いずれの断片 も巻首や奥書 を欠いてお り、その成立年代 については?世 紀初頭か ら13世 紀初頭 の期 間の もの としか推測で きない。 ただ し、資 料1)の チベ ッ ト文字 表記 を西 夏語音 韻 論 の研 究 に利 用 す る こ とにつ い て は慎 重 な検 討 を要 す る。 理 由 となる特 徴 の一 つは 、緑 り返 し現 れ る偈 文 に対 して チベ ッ ト文字 転 写が 省 略 され る こ と、 もう一つ は2)、3)に 比べ 、転 写 の 際 、 チベ ッ ト文字 の 添前 字 が ほ とん ど使 用 され ない こ とであ る注7。 この 二 点 か ら1)は2)、 3)に 比べ 精 密 な資料 と して利 用 で きる とは言 い難 い。 よって本 稿 の デ ー タ と して は、1)の 利 用 を控 えた。 注5旧整理番号108b。荒川(1997)で 夏藏対音資料として利用 した。 注6筆者の内容比定によりこの断片は 『金剛般若波羅密経』の一部であることがわかった。同じ部分が 東方学研究所所蔵m.386,ImB施101『 金剛般若波羅密経』 (鳩摩羅什漢訳の重訳)に 確認でき る。注7この理由がそれぞれの資料を記 したチベット語の年代差、地域差 を反映するということも当然推測 できるが、現時点では論証はできない。 一29一 1.3大 英博物館所蔵夏藏対音資料 夏藏対音資料 は、1.2で略述 した東方学研究所所蔵資料 の他 に、大英博物館所蔵 ス タイン収集品が存在す る。Driem and Keeping(1991)に よれば この資料 は4断 片か らなる名称不 明仏典 である。一部 は公 開される とともに、 ラウ ファーによってチベ ッ ト文字部分がローマ字 に翻字 された注8が、未 だ全資料の公 開はなされていない。 東方学研究所所蔵資料 同様 、Driem and Kepping(1991)に 簡潔 に紹介 されている。 本稿 で は 、Stein(1928)に 影 印版 が収 録 され る一 断片 をデ ー タ と して利用 した。 2.西 夏語の声調 2.1西 夏語 の声母 と韻母 西夏語の一音節は、CV(C)π(T=tone)の 形式 を持 ち、通常西夏文字一文字で表 記 され る。西夏語韻書 は、漢語音韻学に倣い、cv(c)/Tをc-(初 頭子音)と 一v(c)/r (初頭子音 を除 く音節 の残 りの部分)に 分けて記 述 した。漢語音韻学の名称 に従 い、以下では このC.を 「声母」、-V(C)/rを 「韻母」 と呼ぶ。 本稿 は西夏語声母 の推定音再構が主 旨ではないが、後述す るように西夏語の声母 と声調 は密接 な関わ りを持つため、西夏語韻書 における分類 を もとにその下位分類 を含め述べ てお く必要があ ろう。 西 夏語 音 韻 学 は、声 母 の系列 を、 主 に調音 部位 に従 って九種類 ―重 唇音 類(p,ph> b,m)・ 軽 唇 音類(f, v, w)・ 舌頭 音 類(t, th, d, n)・ 舌 上 音類(ty', thy', d? ny')・ 牙 音類(k,㎞,g, ng)・ 歯 頭音 類(ts, tsh, dz, s)・ 正 歯音 類(c, ch, j, sh)・ 喉 音類(宣, h)・ 流 風 音 類(1,lh, ld, z, r, zz)― に分 け る。以 下 で は これ らを 「声母 系列 」 と呼 ぶ。 ()内 に示 した下位 分類 の よ うに、 『文 海』 な どの韻 書 にお いて は、無 声 無 気 音 、無 声 有 気 音 、有 声音 、鼻 音 の順 に声母 が分 類 され てい た 。本 稿 で は、声 母 系 列 は西 田(1989)の 下 位 分類 に従 うが、各声 母 の表 記 は筆 者 が改 め た注9。 西夏語韻母 は、平声97韻 ・上声86韻 と細分化 されていたことが韻書か ら判明 して いる。2.2で 述べ る声調の対立を除 くと、韻母の形式 が同 じ韻類、す なわち通韻 は105 韻に分類 される。本稿 は韻母の推定 を目的とする ものではないため、最低限 この105 韻 の分類 が区別 できるよう表記 するに とどめた。転写法 は参考資料 に示 した。声調 を除いた西夏文字の推定音 には、韻書 『文海』な どの反切 を利用 して再構成 した推 定音 をあてはめている。 湖FRAGMENT OF HSI―HSIA(TANGUT)MS.ROLL, K.K. II.0234.k,WITH INTERLINEAR TRANSLrrERATION FROM KHARA-KHOTOと して、 Stein(1928)に て影 印 とチベッ ト文字の翻字 が掲載 されている。 注9流風音類ZとZZは 西 田の推 定する 乏とSZと に相 当す る。ただ しこの二種 は本稿 で扱 った資料のチ ベ ッ ト文字では区別 されず 、 ともにzで 表記 される。 一30一 2.2 西夏語韻書中の 「声調」 西夏語の声調 には、 「平声」 と 厂上声」が存在 し、韻書 に も区別 されて記 され て いたが、その発音 ・調値 に関する、西夏人自身の具体 的な記述は今の ところ見つか ってい ない。 「平声」 と 「上声」 とは、その声調 を表 した西夏文字注10に、対応 する 漢字 を当てた ものであ り、漢語の平声 ・上声 に相当す るものとは限 らない。す なわ ち、韻書 に確認で きるすべての西夏文字 は平声 と上声の どちらか に分類 は され てい るのであるが、その具体的 な調値が不明のままとい うことになる。本稿 で各西夏文 字 に付 した平声 ・上声 とは、西夏語韻書 によって確認 した ものである。声調の帰属 が不明の文字 については本稿 のデータとしては利用 していない。 これ までの研 究では、西夏語の声調の具体的な調値 は検討 されて こなか った。 ま た、推定 の根 拠 となる資料 について も、西田(1964)で 、西夏語 の声調 とチベ ッ ト 文字転写の比較が、数種 類の音節 について行 われたが、総合的な考察 はその後進展 しなかった。 2.3 西夏語の声調 に関する先行研究 前述 したNevsky(1926)で は、チベ ット文字の子音結合 による西夏語 の表記がお そ らく何 らかのアクセ ン トに関す るものと述べ られているが、具体的 に どの表記が どのようなアクセ ン トを示 したかについては言及 されてはいない注1㌔ 西 田(1964:139-140)で は 、 「西夏 語 自体 には、1一に先 行す る副 次 的構 成 素 は存 在 しなか っ た けれ ど も、 チ ベ ッ ト文 字 表記 で は、 その トネ ーム を表 記 す るた め、 と き にgl-, kl―が用 い られ た」 と、 西夏 語音 とチベ ッ ト文字 表記 の関係 を述 べ て い る。 厂(チ ベ ッ ト文字)gl―, kl-は 平声 韻 を、 i一は上声 韻 を表 記 す る のが 原 則」 で あ り、 チベ ッ ト語 の 諸方 言 で は 、1一の初頭 子音 を持 つ音 節 は低声 調 、gl-, kl一の 初頭 子 音 を 持 つ音 節 は高 声調 で あ るか ら、文 中で は明言 は され て い ないが 、 西 夏 語平 声 は チベ ッ ト語 の高 声調 、西 夏語 上 声 はチベ ッ ト語 の低 声調 に関係 す る、 とい う仮 説 を提 示 してい る こ とに な る注12。 注10それぞ れの文字 は 彼 と 椛 である。以下の例は ともに李范文編著(1997)よ り。 骸 は、 『文海』の字義注には 「平坦也,廣 平也」 (『文海』平声39韻)と ある。 笳 は 歪免1懐 「上来」 (『同音』重唇音類)な どに見られる。 注11Nevsky(1926:24―25)の 序文より。この字典の利用に関する問題点をあげるとすれば、各西夏文字 の韻書による分類が記されない、つまり声調や韻母の分類が不明であるということと、各チベット文 字転写の出典や転写の揺れの度数が記されていないという点である。無論これは字典の主旨ではな く、その価値を下げるものではない。 注'2ただし西田はその後の研究でこの論考を発展させることはなかった。西田(198g)の[音 韻体系] の項で、韻書中の重紐(同 一の音節の、一見過剰と考えられる分類)と 声調 とを関係付け、同じ平声 (に分類されるもの)で も声調のレジスターが違ったものが存在するという仮説を示している。ここ では西田はその具体的な調値の推定はさけている。本考察のデータからは重紐にみられる最小対の例 を確認できなかったため、この点について言及することはできなかった。 一31一 しか し同時 に 「bl-によって表記 される小類は、つね に上声韻」 とい う例外 も報告 されてい る。 これが事実 なら、西夏語上声は高声調 と関係づけ られ ることにな り、 上述の仮 説 と矛盾す ることになるσ この点 に関 しては4.1.5で述べ たい。 また、流音 以外の声母、すなわち鼻音 に関 しては、添前字の有無 と声調の関係 に ついて言及 されてい ない。本稿での考察 によってこれ らを検討 したい。 2.4 夏藏対音資料以外の他言語対音資料 における西夏語の声調 2.4.1西 夏語の声調 と漢語の四声の関係 12世 紀 に編纂 された 『者漢合時掌中珠』は、西夏語一漢語の対照語彙集である。 西夏文字 で記 された西夏語語彙 について、それに相当す る意味、発音が漢字 によっ て付 され、 また西夏語の意義 に相当す る漢語の発音 も西夏文字 によって記 されてい る。すなわち この資料 は、西夏語 によって漢語音 を記 した資料 であ り、かつ漢語 に よって西 夏語音 を記 した対音資料であるといえる。 本資料 は、先行研 究 において、西夏語の声母、韻母 の推定に活用 されたが、西夏 語の声調 に関 して利用可能なデータと考 えられるであろうか。荒川(1997)で 利用 した漢語対音資料のデータか ら、簡単 に再考 してみたい。 漢語 によって西夏語音 を記 した対音資料(漢 語→西夏語 対音資料A)に おいて、 西夏語 ・漢語 の、声調 の帰属が判明 した対応関係 は1120例 存在する。西夏語の平声 ・上声 と漢語 の四声が どの ように対応するかは以下の表の ようになる。 西夏語の声調と漢語の四声の関係(漢 語→西夏語 対音資料A) Tan声 調\漢語四声 平声 上声 去声 入声 計 平声 262 61 43 221 587 上声 160 94 64 215 533 西夏語 に よって漢語音 を記 した対音資料(西 夏語→漢語 対音資料B)に おいて、 漢語 ・西夏語 の、声調の帰属が判明 した対応関係 は1101例 確認 で きるが、上の よう な対応 は以下 の ようになる。 西夏語の声調と漢語の四声の関係(西 夏語→漢語 対音資料B) Tan.声調\漢語四声平声 上声 去声 入声計 平声 381・. 132: 133: 125771 上声 113: 77 66 74330 一32一 入声音節 を考慮 に入れ ない として も、西夏語の平声 ・上声が漢語 の四声 と関係 し ている とはこのデー タか らは考 え難い。従 って、西夏語の声調の推定 に関 して漢語 音 を利用す ることは有効 な手段 とは言い難い。 2.4.2 西夏語の声調 とサ ンス クリッ ト対音 の関係 仏典 中の陀羅尼 は、西夏語音 によってサ ンスクリット音 を表記 した対音資料 であ る。荒川(1995)に おいて、一般 的に確認できた傾向 としては、 「西夏語音節 でサ ンス クリッ ト音 を表記する場合、同一の音節 に対 して平声 より上声 によって転写 さ れるこ とが多 い」点があげ られた。例 えば、サ ンスクリッ ト音節tiを 西夏語音節で 転写す る場合 は、平声音節 の 靉 lti:によってではな く、上声音節 の 舵 2ti:に よって行われ る。すなわち、声調の別 をのぞ くと同一の音節(そ してそれを表す西 夏文字)が あ る場合、サ ンス クリット音の転写 には上声音節が利用 された とい うこ とである。サ ンス クリッ ト音節taの 転写が、西夏語音節上声音節の2ta:に よってで はな く、平声音 節の 茄 1ta:に よって行 われるのは、上声音節の2ta:を 表す西夏文 字が存在 しないため と考 え られる。 西夏語 の声調 とサ ンス クリット対音 は、以上のような点で対応 にやや規則性がみ られ るものの、声調の具体的 な調値の推定に関 して、利用価値のあ る資料 とはい え ない。 3.夏 藏対 音資料 にみ られるチベ ット文字 とチベッ ト語 3.0 チベ ッ ト文字 について CC-の 子 音連 続 を表 す 、 添前 字(prefixed letter)+基 字(root consonant letter)と 添頭 字(superfixed letter)+基 字 は、 チ ベ ッ ト文 字 の正書 法 上 は 区別 され る もので あ る。添 前 字 と添 頭 字 の ふ たつ が基 字 に付 加 され る こ と もあ る。 しか し、本 稿 で扱 う 夏 藏対 音資 料 に は、 添前 字 と添頭 字 が ともに基 字 に付 加 され る例 は ほ とん ど見 られ な い ため 、特 に断 る必 要 が ない場 合 、本稿 ではCl一 と して両 者 を区別 せ ず表 記 し た 。 ま た、 正書 法 上 は、Cl一 の子音 連続 の転 写 はC― が基 字 、1一が添 足 字(subfixed letter)と い わ れ るが 、本 稿 で は添 頭字C―+基 字1.と して扱 う。 一33一 夏藏対音資料のチベット文字の例と本稿での表記 子音 ka η kha 尸 ga 『 nga く ca δ cha ゐ ja ヒ nya ? ta ツ tha ? da 丶 na ら pa し pha レ ba b ma dJ tsa 8 tshaリ dza c wa 秘 zha 獄 za. ∋ 'a n ya ℃ ra 柔 la N sha 91 sa x ha り a w 母音 油3 渡り音 i曇 三 ・ 讐 ・...,・ 譱 -y-ll .ど 注意を要する表記 ・g獅 芭 .w―r"1 ㌧―ム ㎞y・ 〈2 一 涛meミ 3.1夏 藏対音資料 のチベ ッ ト文字表記の特徴 3.1.1西 夏語 の初頭子音 とチベ ット文字添前字 で表記 される子音の関係 夏 藏対 音 資 料 で は、 西 夏語 の初頭 子音C一 がチベ ッ ト文 字C1-C2― ま たはCIC2― で 転 写 され る場 合 が あ る。 そ の際、C1-は 具体 的 な西 夏語 子音 に対 応 せ ず 、 C2一が西 夏 語 の初頭 子 音 に対 応 して い る。 例 Tan.・ 既 1mi:平 声11韻 「〈否 定辞 〉」 ― Tib. d-mi(14.4.8) この西夏語音節の声母 は、サンス クリット音節の初頭子音m― と対応 し、漢語 の明 母 に対応す るか ら、チベ ッ ト文字添前字d-が 何 らかの子音結合 を表記 した もの とは 考 え難 い。 では、 この ようなチベ ッ ト文字C1一 は どのような機能 を持 っていたのかが問題 と なる。 齪 チベット文宇の母音符号には、iを左右に反転させたものも存在するが、資料中には確認できなか った。 一34一 3,1.2 チベ ッ ト文字C1一 の種 類 と機 能 夏 藏 対 音 資 料 に 見 られ る 、 添 前 字 ・添 頭 字C1― はg-,d-,b-,m-,e,s-,r-,1一 注14で あ る 。 用 例 が 少 な い もの か ら そ の 種 類 と機 能 につ い て述 べ る 。 添前字m-,S一 は用例 が少 な く、その機能が判然 としない。 添前字 實-は、基本 的には西夏語の前鼻音化有声音声母 の入 り渡 りの鼻音部分 に対 応 する。 添頭字r一は西夏語 の声母 とは対応せず、捲舌母音 と推定 される韻母 と対応す る。 か つ て添 後字 の ―rは、 捲 舌音 韻母 の例 証 とされ たが 、添 頭字 のr-が 捲 舌音 韻 母 に対 応 す る と考 え られ る例 も資 料 に は見 い だ され る。 例 Tan.酸 lnur,「 指」 ‐Tib. rnu (9.8.6) Tan.概1t・y… 「法」 ―Tib・rt・e(4.2.6) どの ような基準で添頭字 、添後字の使い分 けが行 われ るのか、いまだ検討の余地 は残 るが、 この トが捲舌音韻母 を表記す るために使用 されたことは間違いない。 C1―のうち、 g-,d-,b一注15などが、頻出する もののその機能が判然 とせず、具体的 な西夏語初頭子音 と対応 しない ことが確認で きる。 また、鼻音 ・流音 の初頭子音 と 結びついて記 され る例が顕著 に見 られる。このことは、当時夏藏対音資料 を記 した チベ ッ ト語 とチベ ッ ト文字の関係か ら検討 しなければな らない。 3.2チ ベ ッ ト語 の音変化 と綴 り字 との関係 チベ ット語 の特定の方言 は、通時的変化のある段階で、先行子音C1一 の音 を失 い、代 わ りに声調 の対立が生 じたことが知 られている。 またチベ ッ ト語の通時的な 変化 として、有声音声母の無声化 したことと、その代償 として声調が発 生(低 声調 化)し たこ とが知 られる。 この ことから11~13世 紀、夏藏対音資料 を記 したチベ ッ ト語 の一方言 において、先行子音の音価が失われ、声調の区別が生 じたことは年代 的には十分考 えられ る。従 って、Ci一 を表すチベ ット文字は、西夏語音節の声調の 相違 を表すため に使用 されていた可能性がある。 C{14添頭字1―とは正書法上 、lh―を表す場合のみ、基字h一 との結合形で現れ る。本稿 ではこの添頭 字は 扱わ ない。 注15添前字b-に つ いて、 聶鴻音(1998)は 、 「介音u」 を表す もの と している。例 えば、bkuは 実際 にはkuoと 読 まれ、 bsiは 実際 にはsuiと 読まれ る、 とい う(表 記 は聶 の もの。ただ し具体 的な語彙 は あげ られてい ない)。 聶鴻音(1998:126)よ り。 西夏語の韻母には確かに介音(本 稿の表記ではw)が 存在 し、漢語の対音資料からも確認できる が、本稿第4節 でみられる例のように、必ずしも介音wは 添前字b―で表記されるわけではない し、 添前字b一が転写 している音節が介音を持たないという場合も多い。 一35一 4.夏 藏対音資料 に よる西夏語の声調 の考察 4.1夏 藏対音資料 現代 チベ ッ ト語(ラ サ方言 など)で は、添前字や添頭字が付加 された際、以下の 初頭子音 を持 つ音節 ―鼻音(ng一, ny-, n-, m-)、 流音(1-)、 半母音(y―)-は 「高声 調」で発音 され る、 とい う基本規則がある。 これは子音連続 を示す ものではな く、 綴 り字が声調 の対 立 に対応 して残っているとい うものである。 この規則が、本資料 の西夏語音 を転写 したチベッ ト語の一方言にも適用で きるならば、西夏語 の子音 に 対応 しない添前字や添頭字 の出現が説明で きる。 従 って、チベ ッ ト語 の鼻音 ・流音系列の文字 で転写 される西夏語音節が、本考察 の手がか りとなる。声母 に鼻音 ・流音 を持つ声母系列 は、重唇音類、舌頭音類、舌 上音類 、牙音類、流風音類 の五種類 である。 4.1.1重 唇 音 類 の鼻 音 声 母m. 重唇音類 の鼻音声母m一 を初頭子音 に持つ音節 を、チベ ッ ト文字で転写する際、添 前字、特 にd一が付 加 され る場合が多 く、その音節 は平声 である場合 が多い。例外 の うち、大多数の例 では添前字が付加 される 1翫 「〈否定辞 〉」 の4例 に添前字が 付加 され ないのは誤記 と考 えられる。また、平声であ り、なおかつ添前字が付加 さ れないのは 簪 「施 し」、 疵 「母」な ど特定の文字の転写 に限 られる。 一方、添前字が付加 されない場合は、上声であ る場合が多 い。例外の過半数 を占 めるのは 鞍 「種」 の転写5例 であ り、この文字 の転写 には添前字の有無 に揺れ がある。 例 Tan.・ 既 1mi:平 声11韻 「〈否 定辞 〉」- Tib. d-mi(8.6.14) Tan.麟 2me:'上 声35韻 「下」 - Tib. me(6.10.17) m―を初頭子音 に持 つ西夏語音節 のチベ ット文字転写の例数 は以下の ようになる。 Tib.C1― \Tan.声 調 平声 上声 ?? 14 24 9' i 0 d一 32 6 1畠 0 2 C1― 計 33 8 総計 47 32 4.1.2 舌 頭 音類 の鼻 音 声 母n一 舌頭音類 の鼻音 声母n一 を初頭子音に持つ音節 をチベ ッ ト文字 で転写する際、添前 字g-が 付 加 される場合 は、必ずその声調 は平声である。例外 の うち、磐 「心」 (計2例)に 添前字が付加 されないのは誤記 と思 われる。皴 「故、因」は添前字 一36一 が付 く例 が13例 、付 かない例が6例 と、転写に若干の揺れがある。ただ し、正書法 規則では可能 な添前字b一 は確認で きなかった。 添前 字 が付 加 され ない場 合 は上 声 であ る こ とが多 い 。 例 Tan.饒 1nyl'平 声32韻 「二」 - Tib. g―ni(S.6.21) Ta1L 4良 2nI:上 声28韻 「~ な ど」- Tib. ni(7.6.3) n―を初頭子音 に持 つ西夏語音節のチベ ット文字転写 の例数 は以下 のようになる。 Tib―C1-\Tan声 調 平声 上声 リ一 10 62 9一 46 0 Cl一 計 46 0 総計 56 62 4.1.3 舌 上音 類 の鼻 音 声 母ny'一 舌 上音 類 の 鼻 音 声 母ny'― を初頭 子音 に持 つ音 節 は、韻 書 内 で も最 も少 ない字 数 の グル ー プで あ り、 資料 中 で もほ とん ど確認 で きない 。 チベ ッ ト文字 転 写 の 際、 添 前 字 書一が付 加 され る平 声 韻 の例 は、i)の 資料 に一例 だ け確 認 で きた。 一 方 、資料 を 見 る限 り、 上 声 韻 音 節 の転 写 の際 には、添 前字 は付 加 され ない。 例Tan.垂lny'en平 声41韻 「濁」-Tib.'-nged(5.7。4)注16 Tan.飯2・y'・ ・n上 声49韻 隠 」-Tib・ny・(7.4.22) ny°一を初頭子音 に持 つ西夏語音節のチベ ッ ト文字転写の例数は以下の ようにな る 。 Tib.Ci.\Tan.声 調 平声 上声 リ一 0 4 唖 ― 1 0 C1-計 i 0 総計 1 4 4.1.4牙 音 類 の鼻 音 声 母ng一 牙音類の鼻音声母ng一 を初頭子音 に持つ音節 に対 して、転写の際、添前字、特 に b一が付加 される場合が やや多 く、その声調 は平声 である。 姦 「空」 (計10例)と 俛 「五」 (計6例)に1例 ずつ添前字が表記 されない場合があるが、これは明 ら か な誤記 と考 え られ る。 一方 、添前字が付 加 されない場合 、そのほ とんどは上声韻音節であ る。例外 とな る、上声韻 に属す る音節であ りなが ら、添前字 を持つ ものは、茹 「善」 (4例 全 注16舌上音類の鼻音声母であり、平声に属する音節はこの一例 しか確認できなかった。ただし、西夏語 舌上音類の声母を転写 したチベット文字の対応には疑問が残 る。 一37一 てd・が付 加 される)、 驫 「一切」 (4例 全てb一が付加 され る)な ど、特定の文字 の転 写 が ほ とん どで あ る 。 例 Tan.繍 ingu'平 声5韻 「唱 え る」- Tib, d―ngu(15.2.6) Tan.蔽 2ngu上 声1韻 「を以 て」- Tib. ngu(11.2:2) ng―を初頭 子音 に持つ西夏語音節 のチベ ッ ト文字転写の例数 は以下のようになる。 Tib.C1-\Tan.声 調 平声 上声 リ一 3 S゚ d一 13 4 b一 17 5 C1一 計 30 9 総計 33 67 4.1.5 流 風 音 類 の流 音 声 母1一 西夏語 の流風音類 の流音声母1一を初頭子音 に持つ音節 に対 して、基字(k-,g-,b-) +添 足字 ―1-、または添前字+基 字1一で転写する例は、その音節が上声であるより、 平声 である場合が多い。例外の うち、疵 「風」 は添頭字が付 く例 が2例 、付 かな い例が2例 と、転写 に揺 れがある。 蔽 「~也」 (計8例)に は添前字g一の付加 と 添頭字gの 付加 の例が1例 ずつ確認 で きる。 一 方 、基 字1一 の みで転 写 す る場 合 は、上声 であ る こ とが 多 い。 上 声韻 に属 す る音 節 で あ りな が ら、添 頭字 を持 つ もの は、 屐 「固』 綾 「墓」 な ど特 定 の文 字 の転 写 に限 られ る。 例 Tan.勇 lieu平 声43韻 「一 」 - Tib. gli(10.1.6) Tan.多 21ywuq上 声52韻 「身」 - Tib. lu'(14.7.12) 1一を初頭子音 に持 つ西夏語音節のチベ ット文字転写の例数 は以下のようになる。 Tib.Cl-\Tan.声 調 平声 上声 リ一 S 30 k一 5 2 9帽 14 4 b一 4 7 C1-計 23 13 総計 31 43 西 田(1964)は 「b1一によって表記 される小類は、つねに上声韻」 と述べている が、確か にb1一によって転写 される上声音節 も存在す るが、平声音節でありなが らbl- によって転写 され る例 も確認 で きた。 例 Tan. fl lli:平 声11韻 「子 」 - Tib. b-li(8,10.7) した が っ て、bl一 に よ って表 記 され る小類 は、 つね に上声 韻 とは 限 らない。 一38― 4.2西 夏語 の声調 とチベ ッ ト語音節の声調の関係 4.1であげた、鼻音 ・流音 を初頭子音 に持つ西夏語音節のチベ ッ ト文字転写対応例 の総数 を整理 す ると、以下の ようになる。 Tib.Cl-\Tリ.声 調 平声 上声 リ一 34 178 Cl一 計 133 30 総計 167 208 西夏語 の鼻音 ・流音の音節 に関 しては、Cレ が付加 される場合 と付 加 されない場 合があ り、 その音節が所属 する声調 を調べる と、付加 される場合 は平声韻 であ り、 付加 されない場合 は上声韻 である場合が多い。 す なわち夏藏対音資料 か ら見れば、西夏語 の平声音節 はチベ ッ ト文字転写 の際 に C1一が付加 され る。つ ま り、チベ ット語では高声調で表 されてい る、 と考 え られる。 一方、西夏語 の上声音節 はチベ ッ ト文字転写の際にC1一 が付加 されない。つ ま り、 チベ ッ ト語で は低声調 で表 されている、 と考 えられる。 鼻音 ・流音以外 の音節 について、チベ ッ ト文字の添前字が付加 される例が少 ない のは、 もともと高声調のチベ ット語音節 にC1-を 付加 して も、声調 は高声調の まま 変化 しないので、 チベ ッ ト文字の表記法上、西夏語 の声調の区別 を表記 で きなか っ たため と考 え られる。 5.ま とめ 夏藏対音 資料 か ら次 の点 を確認することができた。 1.西 夏語の一音節 に対 して、チベ ッ ト文字の添前字 などの形 で、あたか も子音 結合の ような転写がみ られる場合がある。それは声母が鼻音 ・流音 である場合が特 に多い。 2.中 で もCl一 が付 加 される音節は、西夏語韻書 では平声韻 と呼ばれる音節 に属 する ものであ り、付加 されない音節は、上声韻 と呼 ばれる音節 に属 する ものである ことが顕著 にみ られる。 この分布 は偶 然 による もの とは考 えられず、チベ ッ ト文字 によって声調の別が区 別 されて表記 されていた と考 えられる。 以上 により、西夏語の平声 は高声調、上声は低声調 であった と考 えるのが妥当で あろう。さ らに、西夏文字 の 「平」 ・ 「上」 という表記か ら考 えれ ば、西夏語の平 声韻 は、高声調 で始 ま りそのまま平板 な型の 「高平調」であ り、西夏語の上声韻 は、低声調 で始 ま りその後上昇する型の 「低昇調」である、 と推定で きよう。おそ 一39一 らく西夏語の声調は、基本的には高低 で音韻的な対 立 を成 し、そのうちの低声調 が、音声 的 には上昇調の ものと観察 されたため、 「上声」 と呼 ばれたのであろう。 本稿 は、西夏語の声調の具体的な調値 について考察 を試みた ものであったが、同 時 に、西夏語音 を記 した11~12世 紀のチベ ット語のある特定の方言が、声調 の対立 を持 つ ものであった ことも示唆することとなった。 これが年代 的に妥当な ものであ るのか どうかは、他言語の資料 も加味 して、今後 も検討 を重ねる必要がある。 《参考資料》 本稿における西夏語音転写法 1.声 調 平声 1 上声 2 2.声 母 重唇音類 P 軽唇音類 f 舌頭音類 t 舌上音類 tゾ 牙音類 k 歯頭音類 ts 蘿欝C 流風音類 1 ph th th? kh tSn ch h lh b V d d? g dz J ld m n ■ny ng W S sh z r 3 韻母 通韻番号,韻 書による平声の番号,対 応する上声の番号,表 記,の 順で記した。 以下の通韻表か らは省略したが、合口韻はw によつて表記する。 従来の摂というレベルのグループ化が不可能な通韻100番 以降は荒川の想定する環に分類する。 等 1 2a 2b 3 1 2 3 1 2 3a 3b 1 2 3 1 2 1 2 3a 3b 第1環 第1摂 R.1 平1=上1u R.2 平2=上2yu R.3 平3=上3yu 餐:書 睾篝=圭4u:5 u' R.6 R.7黔 一上、 vuu:' 第2摂 R.8 平8=上7 i R.9 平9=上8yi R.10 平10=上9i: R.11 平11=上10 i: R.12 平12=上11i' R.13 平13 yi' R.14 R.15 R.16羈 二圭12 i:'13 inyin 第3摂 R.17 平17=上14a R.18 平18=上15ya R。19 平19=上16a: R.20 平20=上17a: 第2環 第8摂 R61平58=上51 uq R62 平59=上52 yuq 第9摂 R.63 平60=上53 yeq R.64 平61=上54 enq R65 平62=上55 yenq 第10摂 R66 平63=上56 aq R67 平64=上57 a:q 第3環 第14摂 R.80 平75=上69 ur R.81平76=上70yur 第15摂 R.82 平77=上71ir R.83 平78 yir R.84 平79=上72 i:r 第16摂 R,85平80=上73ar R.86 平81 yar R.87 平82=上74 a:r 1' 4 1 2 3 1 2 3 (第1環) R21 平21=上18 ya: R。22 平22:上19a' R.23 上20 ya' R.24 平23=上21a:軍 R.25 平24=上22 an R.26 平25=上23 yan R27 平26=上24 a:n (第2環) (第3環) R.88 平83 R,89 上75 ar' yar' 第4摂 1 R.28 平27=上251 2 R.29 平28=上26yI 3a R.30 平29=上271: 3b R.31 平30=上28 1: 1 R,32 平31 1' 2 R.33 平32=上29yl' 3 第5摂 1 R34 平33=上30 e 2 R.35 3a R.36 3bR.37 1R.38 2 R.39 3a R.40 3b R.41 1 R.42 2 R.43 平34=上31ye 平35=上32 e: 鞳=畿 ぎ 平38 ye' 平39=上35e:了 平40 e:― 平41=上36 en 平42=上37 yen 第1ユ摂 R.68 平65=上58 iq R69 平..・ 上59 yiq R70 平67=上60 i:q R71 平68 iq' R,72 平69=上61i:q' 第17摂 R90 平84=上76 1r R.91 平85 yIr R.92 平86=上77 1:r 第18摂 R.93 平87=上78 er R.94 平88=上79 yer 第6摂 1 R.リ 2 R.45 3a R.46 3b R.47 1 R.48 2 R.49 第7摂 la R.50 1b 】iし51 2 R.52 3 R.53 1 R.54 2 R.55 1 R.56 2 R.57 3 R.58 1 R.59 2 R.60 1 2 1 2 1 2 平43=上38 eu 平44=上39 yeu 平45=上40 eu: 平46 上41 平47 平48 平49=上42 平50=上43 平51;上44 平52=上45 平53=上46 平54=上47 平55=上48 平56=上49 平57 上50 eu: eu' yeu' 0 0 yo o: o' yo' on yon o:n 一〇 一 yo 第12摂 R.73 平70=上62 0q R74 平71=上63 0nq R.75 平72=上64 0q 第13摂 R76 上65 eq2 R.77 平73=上66yeq2 . . 上67 eq―2 R,79 平74=上68yeq'2 第19摂 R.95 平89=上80 0r K96 平90=上81 yor R.97 平91=上82 0:r R.98 上83 R.98 上84 wor ywor 一41一 (第1環) R.103 平95 R.104 平97 R.105 平98 yarn un ua (第2環) R.102 平94 woq2 (第3環) R.100 平92=上85yIr R.101 平93=上86yer2 ※凡例 1ma 重唇音類 平声17韻 2chwa:正 歯音類 上声16韻 《参考文献》 荒川慎太郎 1995 「サ ンスクリット音転写規則から見た西夏語音の考察一西夏文陀羅尼を用いて―」 (京都大 学卒業論文). 1997a 「韻書の構成法からみた西夏語音の研究-等 韻の構造に関する一考察―」 (京都大学大学 院修士論文). 1997b 「西夏語通韻字典」 『言語学研究』第16号. Driem, G. v. and Keppirig, K. B. 1991 'The Tibetan transcriptions of Tangut(Hsi-hsia)ideograms."LTBA vol.14:1. Gong Hwang-chern 1981a'―Voiced Obstruents in the Tangut Language.璽'『 中 央 研 究 院 歴 史 語 言 研 究 所 集 刊 』52. 1981b 「西 夏 韵 書 同 音 第 九 類 聲 母 的 擬 測 」 『中 央 研 究 院 歴 史 語 言 研 究 所 集 刊 』52. 1981c 「十 二 世 紀 末 漢 語 的 西 北 方 言 」 『中 央 研 究 院 歴 史 語 言 研 究 所 集 刊 』52. 1988"Phonologi〔al Alternations in Tangut.1'r中 央 研 究 院 歴 史 語 言 研 究 所 集 刊 』59, 1989'The phonological Reco
本文档为【夏藏対音資料西夏語声調】,请使用软件OFFICE或WPS软件打开。作品中的文字与图均可以修改和编辑, 图片更改请在作品中右键图片并更换,文字修改请直接点击文字进行修改,也可以新增和删除文档中的内容。
该文档来自用户分享,如有侵权行为请发邮件ishare@vip.sina.com联系网站客服,我们会及时删除。
[版权声明] 本站所有资料为用户分享产生,若发现您的权利被侵害,请联系客服邮件isharekefu@iask.cn,我们尽快处理。
本作品所展示的图片、画像、字体、音乐的版权可能需版权方额外授权,请谨慎使用。
网站提供的党政主题相关内容(国旗、国徽、党徽..)目的在于配合国家政策宣传,仅限个人学习分享使用,禁止用于任何广告和商用目的。
下载需要: 免费 已有0 人下载
最新资料
资料动态
专题动态
is_842731
暂无简介~
格式:pdf
大小:901KB
软件:PDF阅读器
页数:19
分类:
上传时间:2011-03-29
浏览量:78